「数字」とは面白いものです。
実体がないように思えても、この世の多くを「数字」が決定しているように思います。
そして、その数字を上手く活用したものが「確率」です。
確率は、実際のビジネスの現場においても多く導入されています。
今回は、一見「運」のように見えて、実は計算しつくされた、確率で成り立っているビジネスをご紹介します。
計算によって驚くべき結果を生んでいるビジネス・企業
多くの人が利用するサービスには、多くのデータが集まります。データを通して人間が無意識に行っている行動が見えてきます。そして、そのデータを活用することで、成果を改善したり、ビジネスそのものを成り立たせることもできるのです。
保険
保険は、いざという時の備えとして役立ちます。保険料を支払っておくことで、もし何かあった場合に多額の保険金によって援助が受けられます。保険料を払うことで安心を買うことができるので、多くの人が何らかの形で保険に加入していると思います。
- 医療保険
- 生命保険
- 家電の延長保証
- 携帯端末の補償サービス
- 自動車保険
などなど。
本格的なものから身近なものまで、保険の種類は様々です。
「安心を買うことができる」と言うと聞こえは良いですが、逆に考えると保険は「不幸に賭けるゲーム」とも言えます。例えば、家電製品の延長保証なら、家電が故障すれば新品と交換してもらえますが、壊れなければ保険料は無駄になります。むしろ、家電製品は壊れた方がお得というわけです。
そして、この不幸に賭けるゲームの胴元が、保険会社であり、保険会社は確実に利益を出せる仕組みを作っています。そこに「確率」が導入されているのです。
保険会社は独自に保険料を設定します。この保険料は、保険会社の利益を乗せた上で、確率によって決定されます。その確率とは、「家電製品が故障する確率」です。
製品が売れれば売れるほど、その家電製品がどれくらいの確率で故障するのかがデータと分析でわかってきます。そして、一見ランダムに見える「故障確率」も、データが集まれば集まるほど、一定の確率に近づいていきます。(これを大数の法則といいます)
あとは、その確率に基づいて利益を乗せた保険料を設定するだけです。利用者が増えるほど、家電の補償によって支払う必要のあるお金は増えますが、故障確率は計算によってわかっているので、保険会社は常に利益を出すことができるのです。
借金
最近は、無担保・無保証で借りられるカードローンが増えています。昔のように連帯保証人を付けて、本人が借金を返せなくなったら、連帯保証人に返済させるというやり方は薄れています。(厳密には、保証会社が連帯保証人の役割を担います)
また、大手になるほど、簡単な審査ですぐにお金を貸してくれます。そして、もし借金を返せなくなっても地獄まで追いかけてくるというようなことはなく、貸し倒れを認めるケースも少なくありません。(もちろん回収率を上げる努力はしていますが)
なぜ、すぐにお金を貸してくれて、しかも返せなくなってもそこまで取り立てが厳しくなくなったのか。その理由は、大手のカードローン会社になるほど、「顧客ごとの貸し倒れデータ」を持っているからです。例えば、
- 20代の公務員で年収◯万円の人は貸し倒れ率◯%
- 30代の専業主婦の場合は貸し倒れ率◯%
といった具合に、「こういう属性の顧客は◯%の確率でお金が返ってこない」 ということを、データ分析でわかった上で、あえて融資を行います。そのデータに合わせて、利益が出るように「融資金額と金利」を決定するので、◯%の確率でお金が返ってこなくても、トータルでは確実に利益が生み出せるのです。
一方で、貸し倒れ率は常に一定ではなく景気によっても左右されます。景気が悪くなり、リストラが加速すれば当然、借りたお金を返せない人も増えてくるでしょう。そうなると、貸し倒れ率が上がるので、それに合わせて「金利の引き上げや融資額の引き下げ(貸し渋り)」が起こります。
現実に、リーマン・ショックが起こった2008年頃の消費者金融業界は、不景気の煽りとグレーゾーン金利問題によって、壊滅的なダメージを受けていました。当時は、大手消費者金融業者ですら、「営業停止しているんじゃないか?」と思えるほど貸し渋りを行っており、ほとんど審査が下りなかったと聞きます。
カジノ・パチンコ
「確率」を使ったビジネスは、カジノやパチンコといったゲーム業界にも導入されています。数年前に「コンプガチャ問題」なるものがありましたが、オンラインゲーム業界にも確率論が導入されていることは有名です。
興味深いエピソードを2つ紹介します。
ハラーズ社のカジノは、顧客を逃さずにどこまでお金を搾りとれるかについて高度な予測を行っている。
顧客の持つカード情報に、ゲームの結果からその人の属性までが記録されて、分析される。
そして、それぞれのギャンブラーがいくらまでならお金をすってもそれを楽しめて、またここに戻ってきてくれるかどうかを予測する。
この魔法の損失額数値を「痛みポイント」と呼んでいる。
365 名前:おさかなくわえた名無しさん[sage] 投稿日:2011/01/31(月) 14:04:21
サルを完全に破壊する実験って知ってる?まずボタンを押すと必ず餌が出てくる箱をつくる。
それに気がついたサルはボタンを押して餌を出すようになる。
食べたい分だけ餌を出したら、その箱には興味を無くす。
腹が減ったら、また箱のところに戻ってくる。ボタンを押しても、その箱から餌が全く出なくなると、サルはその箱に興味をなくす。
ところが、ボタンを押して、餌が出たり出なかったりするように設定すると、サルは一生懸命そのボタンを押すようになる。
餌が出る確率をだんだん落としていく。
ボタンを押し続けるよりも、他の場所に行って餌を探したほうが効率が良いぐらいに、
餌が出る確率を落としても、サルは一生懸命ボタンを押し続けるそうだ。
そして、餌が出る確率を調整することで、サルに、狂ったように一日中ボタンを押し続けさせることも可能だそうだ。366 名前:おさかなくわえた名無しさん[sage] 投稿日:2011/01/31(月) 14:17:29
のちのパチンコである掲示板 2ちゃんねるより(スレ不明)
パチンコで言うと、グランドオープンの時は赤字覚悟で、連日の大当たりを演出します。「あの店はよく出るぞ」と顧客を惹きつけたところで、少しずつ当たりを絞って、店の利益が黒字になるように調整をしていきます。
たまには赤字で大放出、たまに黒字で出し渋る。これを繰り返すわけですが、調整は胴元である店側が行っているので、少しずつ少しずつ、当たりの確率を少なくしていきます。顧客は当初の「この店は当たる感」を忘れることができず、いつの間にか全く当たりが出ない店に変貌しているにも関わらず、その店に足を運び続けてしまうのです。
「もう二度とやりたくない」という思いと「次こそは」という思いのギリギリのポイント(前述でいう「痛みポイント」)を確率から弾き出すことで、ビジネスを成立させています。
最初から、まったく当たりが出ずに顧客に大損させてしまったら、誰もその店に足を運ぼうとしません。最初に美味しい思いをさせ、少しずつ確率を引き下げていくことで、底なし沼にハマっていくと言うか、依存を引き起こすわけですね。
私自身、学生の頃はよくパチンコに行っていたのですが、当時は年齢的にも初めてパチンコを体験する友人が多くいました。その中でもやはり、
- 最初に全く当たりが出ず損した友人 → パチンコはそれっきり
- 最初にビギナーズラックで当たりを経験 → 継続的に足を運ぶ
という傾向が強かったように思います。
Amazonなどのオンライン通販
ここまでは、とにかく確率によって「搾取」している感のあるビジネスを紹介してきました。しかし、確率を使ったビジネスは「顧客満足度を最大化」させる効果も生み出します。
例えば、ネット通販のAmazonに代表されるレコメンド機能。「この商品を買った人はこちらの商品も買っています」というやつですね。この機能は、膨大な顧客の購買データから、「ついで買い」に繋がりそうな商品をおすすめするように作られています。
また、購買データを上手く活用することで、次に何が売れるかを予想し、仕入れにも活用しています。例えば、季節ごとに売れなさそうな商品の仕入れを少なくし、売れると予想される商品の仕入れを増やすことで、余剰在庫を出にくくしています。
先日、ブログで取り上げたクックパッドの「たべみる」というサービスは、スーパーの事業者向けにデータを販売するサービスです。クックパッドを通じて、その日の「家庭の献立」を予測し、いま消費者が欲しがっている食材(買われる確率が高い食材)を見える化します。スーパーの事業者はそれに合わせて、買われる確率が高い食材をセール品にしたり、見えやすい場所に配置するなどの売り場設計に役立てられます。
参照:もはやただのレシピサイトじゃない「クックパッド」がやってるビジネスまとめ
動画再生サービスの場合も同様で、「この動画を見た人はこちらの動画も見ています」と案内を出します。こうすることによって、本来は埋もれてしまいがちな不人気の動画も、その動画に興味のありそうな特定の顧客におすすめすることができます。アメリカの大手動画再生サービス会社ではなんと、提供している全映画や全音楽の9割以上が毎月再生されているのだとか。
いかがでしたか?
データと確率論をビジネスに取り入れることで、企業は売上を最大化できます。と同時に、顧客に対する満足度を最大化することもできます。
何やら操作されているのではないかと考えると怖い気もしますが、確率によって動いているビジネスがあるということを知ることで、それらのサービスを上手に活用したり、依存を避けたりすることができるかもしれません。
最近、新聞などでも言われている「ビッグデータ」という言葉があります。
特に、ネット業界ではこれからますます「データと確率に基づいたサービスの提供」が加速していくと思われます。
搾取されそうな部分を避けることはもちろんです。しかし、確率論で操作されていたとしても、レコメンド(推奨機能)など、私たちの行動を手助けしてくれるサービスには、あえて乗っかっていくことで、より生活しやすくなる時代が来るのではないかと思います。
(書いた人:川原裕也)