「ソフトバンクは事業会社ではなく投資会社だ」
これはネット上でよく見かけるソフトバンクに対する評価です。
将来性のある企業への投資、そしてM&A(企業買収)によって成長を続けてきたソフトバンク。現在も、主力の携帯電話事業から得た収入を軸に、多くのITベンチャーに出資をしています。
「事業会社が投資会社のようなことをしても良いのか?」
ソフトバンクの孫正義社長はかつて、TV番組のカンブリア宮殿に出演した際、「他人のふんどしも借り慣れて、借り倒していけば、借りるのが上手になる。それもひとつのお家芸、それも才能のうち」と語ったことがありますが、その結果がこれ。
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ソフトバンクが保有する上場株式の含み益(時価評価益)は、実は9兆7,000億円もあるんです。
まさに投資のプロ中のプロ。。。
この実績を見れば、事業会社が投資会社のような経営方針を取ることもまた、堅実な戦略の一つであると言えるのではないでしょうか。
ソフトバンクが保有する上場株式とその損益
ソフトバンクが現在保有している上場株式は以下のとおりです。
ヤフー 1兆2,239億円
ソフトバンクが投資した企業の中で、大成功を収めた事例の一つが「ヤフー」への出資です。こちらは日本のYahoo!JAPANの方です。
ヤフージャパンは1997年に上場して以来、日本のインターネット業界において、もっとも重要なポジションを担ってきました。検索エンジンやヤフーニュース、そしてヤフオクなど、誰もが一度は使ったことのあるネットサービスを提供しているのが、ヤフーです。
米ヤフーと日本のヤフーは姉妹関係にありながらも、互いに独自路線を歩んできました。特にYahoo!JAPANの経営陣は優秀で、継続して増収増益を達成し、事業を拡大しています。
ソフトバンクは現在、36.3%のヤフー株を保有する筆頭株主となっています。そしてその含み益は、1兆2,000億円を超えるまでに成長しています。
ヤフーへの投資が、ソフトバンクの事業拡大の大きな原動力となっていることは、間違いありません。また、ソフトバンクが多くの企業に出資しているように、ヤフーもまた様々な企業に投資を行っています。
ソフトバンク・テクノロジー 74億円
ソフトバンクの子会社として主にECサービスやシステム構築を行っているのが、ソフトバンクテクノロジーです。
ソフトバンク・テクノロジーの時価総額は149億円。ヤフーの時価総額が2.8兆円であることを考えると、上場しているとは言え、比較的小さな会社に見えます。ただ、これは相対的に見て小さいというだけであり、投資に対する含み益が74億円という絶対額でみると、やはり凄いと言わざるを得ません。
アイティメディア 35億円
その名の通り、IT関連のメディア運営を行っているのが、アイティメディアです。毎月3,000本の記事を配信し、月間1億ページビューのサイト群を運用。IT業界に精通している人なら、誰もが一度はチェックしたことのあるサイトだと思います。
代表的な運営サイトは「ITmedia」や「ねとらぼ」など。
メディア運営を専門に行っている会社なので、時価総額は96億円と小さめです。しかし、ソフトバンクは51億円の保有時価総額のうち35億円の含み益を得ています。つまり、(売却分などを除いた場合)16億円の投資が5倍弱になっているということですね。
ベクター 20億円
オンラインゲームやソフトウェアの販売で有名なベクター。私がコンピューターを触り始めた15年ほど前は、毎日のようにベクターからフリーソフトをダウンロードしていましたが、近年ではほとんど、そういったものを利用する機会もなくなりました。
ベクターもアイティメディアと同じく、時価総額は小さめです。ソフトバンクは42.2%のベクター株式を保有し、20億円の含み益を得ています。
国内の上場株への投資分はすべて、含み益となっており、損失は発生していません。
ガンホー・オンライン・エンターテイメント 1,892億円
ゲームアプリ「パズドラ」が大ヒットした際、ソフトバンクがすかさず子会社化したのが「ガンホー・オンライン・エンターテイメント」です。
株式市場では「伝説」とまで言われた2013年のガンホー株の急騰により、ガンホーの時価総額は急上昇しましたが、現在はピーク時の3分の1程度にまで落ち込んでいます。
ガンホー株の直近の底値が2012年5月31日に付けた14円(株式分割後)、そしてピーク時点の株価が、ちょうど1年後となる2013年5月31日で1,633円。実に116倍に高騰したガンホー株を、ソフトバンクが子会社化したのは2013年4月で、その価格が340円。
ソフトバンクがガンホーを子会社化した2ヶ月後に株価がピークを迎え、ガンホー株は大暴落を起こすわけですが、それでも現在の株価475円と比較すると、子会社化を発表してから約40%の含み益が出ている状態です。ガンホーバブルの崩壊直前に買い増したにも関わらず、まだ含み益を維持できているのがすごい。。。
わかりやすく説明するとこんな感じ。
2012年5月31日:
ガンホー株の株価は14円。。。
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2013年4月1日:
ガンホー株急騰の真っ最中にソフトバンクが子会社化を発表。
取得価額は340円。
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2013年5月31日:
わずか2ヶ月後に株価がピークの1,633円を付けて、その後大暴落。
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今日現在:
株価は475円。ガンホーバブル崩壊後もソフトバンクは含み益を堅持!
※株価は株式分割後の数値
以前からの持ち分も含めて、現在の含み益は1,892億円。ちなみに、含み益が1,892億円がどの程度かというと、
- カゴメ(時価総額1,833億円)
- アイフル(時価総額1,832億円)
- サッポロホールディングス(時価総額1,812億円)
- グリー(時価総額1,829億円)
この規模の会社が丸ごと買えてしまうほどの金額です。
尚、4月28日にガンホーが自己株式の取得を発表したため、自己株取得後はガンホーはソフトバンクの子会社ではなくなり、「持分法適用会社」となる予定です。
ガンホーの株価推移がこちら。
スプリント 701億円の損失
続いて海外の会社。
アメリカ第3位の携帯会社「スプリント」の買収を発表したのが2012年。スプリント買収後2年が経過しましたが、ソフトバンクが出資した大型買収の中で、足踏み状態にあるのが、スプリントです。
スプリントの再建には時間と困難を要しており、市場関係者の噂では「ソフトバンクはスプリントを売却し、アメリカ進出から徹底するのではないか?」と言われています。
現在、スプリントへの投資では約700億円の損失が出ています。しかし、買収当時の為替レートが1ドル82円、現在の為替レートが1ドル約120円となっていて、株式投資では損するが、今アメリカから手を引けば、為替差益で約1兆円の利益が出るとのこと。。。
スプリントへの大型投資はギャンブルのように見えて、実はかなり有利な状態で進められていたことがわかります。急激に円安が進む直前のベストタイミングでソフトバンクが投資を実行できたのには、「為替の神様」とまで言われた元取締役「笠井和彦」氏(2013年10月に死去)の存在があります。
笠井氏は銀行界では「為替の神様」といわれた。
世界一の携帯電話事業会社を目指すソフトバンクは昨年、スプリント・ネクステル買収に打って出た。米国政府の認可が出る前の12年秋に、笠井氏は買収資金の為替を予約。周囲が不安視する中、「絶対に円安が進む」と断言して1ドル=82円20銭で買収資金を集めた。13年1月の買収発表時点で2000億円程度の為替差益が出るとの見立てだった。その後、さらに円安が進み、3000億円の為替差益をもたらした。市場関係者は、この笠井氏の手腕に感嘆した。
http://biz-journal.jp/2014/05/post_4829.html
アリババ 8兆4,101億円
ソフトバンクが行った投資の中でも、過去最高の投資収益率を誇るのが、中国の「アリババ」への投資です。アリババは2014年9月にニューヨーク証券取引所に上場を果たしました。ソフトバンクが投資した累計額は105億円、それに対する投資リターンは800倍。
アリババ・グループは、Eコマースの「淘宝網(タオバオ)」や、卸売市場の「Alibaba.com」などを展開する、中国最大のオンラインショッピングモール運営事業者。簡単に言うと、中国No.1のAmazon.comといったところ。
ヤフーへの投資リターンをはるかに上回る巨額の利益を、アリババはもたらしました。しかし、これだけの含み益が発生していても、孫社長の発言によると、当面アリババ株を売却する意向はないとのこと。
レンレン 58億円
「中国版Facebook」と言われる、SNS運営のレンレン(人人網)。レンレンもアリババと同じくニューヨーク証券取引所に上場を果たしましたが、上場後株価は急降下、現在はピーク時の約7分の1で推移しており、赤字状態が続いています。
しかしそれでも、ソフトバンクの評価損益はプラス。58億円の利益を確保しています。
その他の出資・売却
その他、ソフトバンクは様々な企業に出資をしていますが、失敗したものや、しれっと売却して利益を得ているものなど、様々。週刊ダイヤモンド誌の2015年1月24日号に、投資実績のわかりやすい表が掲載されています。
この他、最近では以下の様な会社にも投資しています。
■レジェンダリー・エンターテインメント(約270億円の出資)
ハリウッド版「GODZILLA ゴジラ」などを制作した、アメリカの映画制作会社
■スナップディール(約677億円の出資)
インドの大手Eコマース会社。簡単に言うとインドのAmazon.com。
■オラ(約227億円の出資)
インドでタクシー配車アプリを展開。
■トコペディア(約107億円の出資)
インドネシアのオンラインマーケットプレイス。
■グラブタクシー(約300億円の出資)
タクシー配車サービス。マレーシアやシンガポールなどの東南アジアを中心に6カ国17都市で展開。前述の「オラ」と合わせて、ポスト米ウーバー(Uber)の会社に積極的に出資していることがわかります。そういえば、フィリピンに留学してた時に、友達がこのアプリ使ってました。
あとは、携帯端末卸会社のブライトスターや、クラッシュ・オブ・クランを制作したスーパーセルの子会社化など。
一撃の当たりが大きい投資手法
出資した企業に対して、ソフトバンクが持つノウハウや営業力、コネクションなどを提供し、成功に導くことはもちろんですが、投資実績を見てみると「多くの案件に出資をして、一撃の大きな当たりを引いている」ことがわかります。例えば、現在の含み益9兆7,000億円のうち、アリババの含み益の割合が約87%です。
例えば、投資の神様「ウォーレン・バフェット」は投資案件を極端に絞り込んで集中投資をするスタイルなので、ソフトバンクの投資方法とは正反対のように見えます。
しかし、長期保有を行い、1案件の大成功が多くの利益をもたらす「一撃必殺」が成功の形となっている点では、両者は同じです。投資手法の中には、小さく勝って利益を積み上げる「デイトレード」のような方法もありますが、1案件の成功で爆発的な利益を手に入れている、「ソフトバンクの勝ちパターン」は大変興味深いです。
いかがでしたか
今日、紹介した情報は2015年5月15日時点の損益です。ソフトバンクの公式ページでは、保有株式に関する情報が公開されており、いまどの程度の含み損益が発生しているのかがわかります。
もちろん、上記のページで公開されているのは、すでにIPO(新規株式公開)を果たした上場企業だけの情報です。現在のソフトバンクは、毎月のように未公開会社に出資を行っているようです。これらの会社が上場を果たした時、9兆円を超える含み益は、さらに増加していくと予想されます。
投資やM&Aは、時に損失を被る危険性もある諸刃の剣。しかし、他人のふんどしも借り倒していけば、驚くような利益を生み出すことができるメリットがあることも事実なのです。
(書いた人:川原裕也)