最近読んだ中で、最も衝撃的だった本はピーター・ティールの「ZERO to ONE」です。2014年9月の発売当初、結構話題になった本なので、既に読まれた方も多いと思います。私は今年に入ってから読んだのですが、これまでの自分の考えとはまったく異なった発想でビジネスが語られていて、興味深かったです。自分の頭では到底考えもつかないことが書かれていると、やはり衝撃を受けます。
会社でアイデアを求められる立場にある人や、起業を考えている人は、読んで損はない良書です。思わず、「この発想はなかったわ」と言いたくなるような新しい視点を、この本は示してくれるはずです。
ピーター・ティールって誰?
「ピーター・ティールって誰??」と思う人も多いので、簡単に経歴をまとめます。彼は投資やベンチャー業界では結構有名な人です。主な肩書は「事業家、投資家」になると思います。
幼少期
ピーターティール(ピーターシールと呼ばれることも)は、1967年生まれの47歳。ドイツのフランクフルトで生まれた後に、ティールが1歳の時に家族と共にアメリカに移住します。青年の頃はアメリカのチェス大会で優勝を果たしたこともあり、非常に頭のキレる人物であることを伺わせます。スタンフォード大学では哲学を専攻。
PayPalの創業
29歳の時は、クレディ・スイス銀行でデリバティブ(金融派生商品)の取引を担当し、その後29歳にして「ティール キャピタルマネジメント」というファンドを立ち上げました。そのわずか2年後、31歳の時にPayPal(ペイパル)を創業します。(ペイパルは日本でも有名な決済サービスなので、多くの方が一度はペイパル支払いを経験したことがあると思います。)
この時、ティールと一緒にくペイパルを創業したメンバーの中に、リード・ホフマンがいます。リード・ホフマンはビジネスSNSの「LinkedIn(リンクトイン)」の創業者であるとともに、後にティールとFacebookを繋げることになる、重要な人物です。
PayPalはその後、同業のX.com(エックスドットコム)と合併し、2002年に上場します。この「x.com」の創業者が、かの有名な「イーロン・マスク」です。イーロン・マスクは現在、電気自動車のテスラモーターズのCEOとして活躍している人物です。PayPalのメンバーだった、ピーター・ティール、リード・ホフマン、イーロン・マスクは現在でも、事業家や投資家として活躍していることから、彼らは「ペイパルマフィア」と呼ばれています。
2002年に上場したPayPalは同年にeBay(イーベイ)に1.5ビリオン(当時の時価で約1,880億円)で買収されました。ティールはこの時、PayPal株を3.7%保有しており、eBayの買収によって55ミリオン(約69億円)の売却益を得ることに成功しました。
ティールはPayPal売却後、Clarium Capitalというグローバル・マクロファンドを立ち上げ、事業や投資の世界で活躍します。2011年のフォーブス400(アメリカの長者番付)では293位にランクインし、2012年のティールの資産は1.5ビリオン(当時の時価だと1,200億円)にまで増加しています。
Facebookへの出資
ピーターティールは、2004年8月にFacebookに出資し参画しています。Facebookが外部の投資家から出資を受けたのは、この時が初めてです。つまり、ティールは外部の投資家として、Facebookに初めて出資した人物となります。
実はこの時の話にちょっとした逸話があります。
Facebookの初代CEOを務めたカリスマ起業家「ショーン・パーカー」が最初にアプローチしたのは、リンクトイン創業者のレイド・ホフマンでした。しかし、ホフマンはFacebookを気に入っていたものの、メインの投資家になることを断りました。これには理由があって、当時リンクトインのCEOを務めていたホフマンにとって、フェイスブックが将来的にリンクトインのライバルとなりえる可能性があったためです。
そこでホフマンがショーン・パーカーに紹介したのが、ピーターティールだったと。まさに、PayPalマフィアが生み出した奇跡ですね。もしこの時、Facebookに出資したのがティールでなかったら、フェイスブックはまた違った形で成長を遂げていたかもしれません。
ちなみに、ティールは2012年のFacebook上場後、すぐに同社株をほとんど売却しています。Facebook株を売却した理由が、本書に書かれています。
「我々は空飛ぶ自動車を欲したのに、代わりに手にしたのは一四〇文字だ」。このコピーはツイッターを揶揄したものだが、要は、フェイスブックを含めてソーシャル・ネットワーキング・サービスの未来が、ティールにはあまりに小さく退屈だったということだろう
まったく新しいものを創造するということ
続いて、本書で心に残った部分を紹介します。
ピーター・ティールが採用面接で必ず聞くという質問がこれ。
「賛成する人がほとんどいない、大切な真実はなんだろう?」
誰も賛成していないし取り上げもしない、でも重要だと思える問題ってあると思います。それこそが、ビジネスのタネだとティールは言うのです。
ティールは多数派の意見を積極的に覆すことを意義あることと考える。
あるべき姿は、「競合とは大きく違うどころか、競合がいないので圧倒的に独占できるような全く違うコンセプトを事前に計画し、それに全てを賭けろ」というスタンスである
ティールは競争ではなく、独占の重要性を強調する
何よりの逆張りは、大勢の意見に反対することではなく、自分の頭で考えることだ。
通常、ビジネスには「競合」や「ライバル」がいて、それらと競争することによって、利益やマーケットシェアを確保することを考えます。そして、お互いに切磋琢磨しあう競争の中で、新しいサービスが生まれたり、製品が磨かれていくのです。
しかし、ティールの考え方はまったく違っていて、「完全競争」を否定しています。ティールが推奨しているのが「競争」ではなく、競争のない「独占」です。つまり、「賛成する人がほとんどいない、大切な真実」に着眼することで、新しい市場を創造せよというのです。
完全競争下では長期的に利益を出す企業は存在しない
資本主義は資本の蓄積を前提に成り立つのに、完全競争下ではすべての収益が消滅する
永続的な価値を創造してそれを取り込むためには、差別化のないコモディティ・ビジネスを行なってはならない
競争は資本主義の対極にある
考えてみると難しい
本書を象徴する一文。
「賛成する人がほとんどいない、大切な真実はなんだろう?」
この質問を聞いて、みなさんはどんな答えを思い浮かべますか?
私も考えて見ましたが、意外と答えは見つけられないものです。。。
世の中には不便や不満がたくさん溢れていて、自分も含めて多くの人がそれらについて悩んでいます。でも、「それは一体なに?」と聞かれると具体的に出てこなかったりします。そこからさらに深堀りして、周りの人は「偽」だと思っていて、あなただけが「真」だと思っていることにまで考えを飛躍させるとさらに難しいです。
ただ、それこそがティールが言う挑戦する価値のあるビジネスであるというわけです。
ピーター・ティールに関する記事はこちら。
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(書いた人:川原裕也)
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