ビジネスモデルが近い上場企業と当社の事業を比べてみました。
インターネットの情報サイトや比較サイトを運営している会社は本当に多いです。その中には上場している企業も少なくありません。例えば、ミクシィはSNSを提供し、価格.comは比較情報を提供しています。All Aboutはお役立ち情報を提供していますし、イードはRBB TODAYなどのニュース情報を配信しています。
これらの企業は総称して「メディア(媒体)」と呼ばれています。
そして、上場には遠く及びませんが、当社「株式会社クートン」も「インターネットメディア運営事業」と名づけて、情報サイトの制作を行っています。
メディア運営事業社の中には、当社のように
- 利用者に対して無料で情報を提供して
- 自社サイトにアクセスを集めて
- サイト内に広告を掲載して
- 広告主から広告料をもらう(売上)
というビジネスをしている会社は非常に多いです。
SNSや比較情報やニュースなど、見せ方は違えど、最終的に広告収入で売上を立てているという点では同じです。課金方法は複数におよぶものの、Yahoo!JAPANやクックパッドなんかも広告収入による売上は大きな比率を占めています。
今日はその中でも、私が以前から気になっていた「じげん」という会社と、その会社と似通ったビジネスモデルとなる「ウェブクルー」、そして当社「クートン」の3社を比べてみます。また、少し形式は違うのですが、成果報酬によるビジネスモデルを展開している「リブセンス」についても合わせて紹介します。
※ウェブクルーは2015年5月に、ニュートン・フィナンシャル・コンサルティングの完全子会社化に伴い上場廃止となりました
じげん
じげんのミッションは、
ライフメディアプラットフォームを創造し、『生活機会』の最大化を目指す。
ライフメディアプラットフォームとして、様々なバーティカルメディアを運営しています。この「バーティカルメディア」という耳慣れない言葉ですが、わかりやすく説明すると「特化型サイト」という意味です。以前から存在した言葉だと思うのですが、耳にするようになったのは、じげんが上場したあたりからだと記憶しています。
じげんが手がける主なサイトは、ライフイベント領域(求人・住まい・結婚・自動車)といった日常生活に密着するジャンルです。じげんが運営するサイトには「EX」の名前が付いているのが特徴。
- 転職EX
- 看護求人EX
- 賃貸SMOCCA!-ex
- 引越し見積もりEX
- 婚活EX
- 車買取EX
などなど。
参照:運営サービス一覧
じげんのビジネスモデル
じげんが提供するサイトは、複数の事業者の情報をまとめて比較できるのが特徴です。
「転職EX」の場合、直接の取引先となるのは、マイナビやDODA、ジョブセンスリンクといった求人情報サイトです。
通常、求職者はこれらの求人情報サイトをいくつも回って、最適な仕事を見つけなければなりません。しかし、各サイトのIDをいちいち登録をしたり、複数のサイトを横断して仕事を探すのは面倒です。そこで、転職EXのような「求人情報サイトに掲載されている情報のまとめサイト」を活用するメリットが出てきます。
求職者は、転職EXに登録するだけで、複数の求人情報サイトに掲載されている情報をまとめて検索したり、一括応募することができます。一方で、転職EXは求職者から得た情報を、各求人情報サイトに提供することで、成果報酬を得ます。これが、じげんのビジネスモデルです。
こちらがじげんの公式サイトのビジネスモデル解説図。
業績は右肩上がり
じげんは創業以来、8期連続の増収増益を達成しています。
事業領域を拡大をするに連れて利益率は下がってきていますが、直近の本決算でも40%近い、驚異的な営業利益率を誇ります。
成長著しい事業ですが、リスクが全くないわけではありません。
決算のリスク説明の項目では、以下のように記載されています。
④ 競合について
現在、ライフメディアプラットフォーム事業と同様のビジネスモデルでメディアを運営する競合企業は複数存在いたします。当社グループとしては、Webマーケティング技術や、表示するコンテンツや情報の整理の仕方等、ユーザーにとってわかりやすく使いやすいサイトの構成ノウハウ等をもとに、保持するデータベースの量やクライアント企業の案件への応募数において、他社との差別化を図ることで、市場における優位性の構築を推進して参りました。今後も、当社グループでは、ライフメディアプラットフォーム事業に属している各サイトの規模拡大と質的な充実を図ることにより、一層の強化を推進していく方針でありますが、大手ポータルサイト運営事業者等の新規参入や、既存他社サイトの規模拡大等によりユーザーの獲得競争が激化した場合には、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。
まず、同様のビジネスモデルを持ったライバルが多いこと。そして、同じ市場に大手ポータルサイト運営事業者(例えばヤフーなんかがそうでしょう)が参入してきた場合。こういった場合に、成長が鈍化するおそれがあると、じげんは説明しています。
これからの展開
転職EXに代表される、「一括掲載・一括申込」のビジネスモデルを活用して、「求人・住まい・結婚・自動車」と領域をさらに拡大していく方針です。また、それぞれのサイトのデータベース(掲載数)を増やすことによって、価値を高めるとのこと。
新しい分野では、ベトナム国内向けに同事業を展開したり、積極的なM&Aによって証券事業への参入を決めています。その他、キュレーションメディアへの参入や、じげんスタンプによる新たな取り組みなど。
時価総額1兆円を目指すとしており、まだまだ成長意欲の高い、野心的なベンチャー企業です。
じげんについては、こちらの記事が面白いです。
人気沸騰のじげん、利益率5割超えの秘密(バーティカルメディアというドル箱事業)
ウェブクルー
一括比較・見積りサイトの「ズバット」を運営するのが、ウェブクルーという会社です。2015年に光通信系のテレマーケティング保険代理店大手「ニュートン・フィナンシャル・コンサルティング」に買収され、2015年5月に上場廃止となりました。
というのも、ウェブクルーは、ズバットのような一括比較サイトの運営でも有名ですが、メインの事業はインターネットを活用した保険代理店業務だからです。
ウェブクルーの沿革を簡単にまとめるとこのような感じです。
1999年10月:自動車保険一括見積もりサイト「保険スクエアbang!」の運営からスタート
2000年3月:保険代理店業務の運営「損害保険見直し本舗」の開始
2001年1月:生命保険一括見積もり依頼サービスの開始
2001年12月:生命保険代理店業務の運営「保険見直し本舗」の開始
2003年3月:中古車一括査定依頼サービスの開始
2003年10月:引越し一括見積もり依頼サービスの開始
2004年9月:東証マザーズ上場
2004年11月:結婚情報サービス会社の無料一括資料請求サービスを開始
2010年7月:統合ポータルサイト「ズバット」の開始
ネット関連事業の沿革を抜き出してみました。
その他にも「中国火鍋専門店」のようなレストラン経営や、「海産物ECサイト」といったネット通販なども手がけており、現在の運営サイト数は50サイト以上。
一括比較・見積もりサイトの「ズバット」には「保険比較」のコンテンツもありますが、おそらく「保険スクエアbang!」と事業が被っていると思います。やはり、ウェブクルーが得意としているのは保険関連事業ということなのでしょう。
ちなみに、じげんはウェブクルーの主軸である保険領域には参入していません(自動車保険EXのみ)。一方で、ウェブクルーはじげんの主軸である転職領域に参入していません。
車買取や引っ越しなど、一部の領域で両社は被るところがあります。しかし、ズバットはプロによるアドバイスなどの記事コンテンツが中心、一方でじげんの方はデータベースサイトのように、掲載データ数で勝負という感じです。
ズバットや保険スクエアbang!を中心としたEマーケットプレス事業
ウェブクルーの業績
じげんに比べると、売上高・営業利益ともに一回り大きいです。
しかし、営業利益率はかなり低め。。。
原価率の高いレストラン事業やECが営業利益率を圧迫しているというのはすぐにわかるのですが、実際に「生活サービス事業」「車関連事業」といった一括申込系のサイト単体で切り出しても、利益率は10%~15%程度です。
高い利益率を誇るじげんと、ここまで差が付く理由は2つ。
①売上高に対する広告宣伝費の比率
ウェブクルー:50%~60%程度
じげん:20%程度
②売上高に対する人件費の比率
ウェブクルー:15%程度
じげん:9%程度
ウェブクルーの広告宣伝費の大多数はリスティング広告です。インターネット関連事業は「SEOとリスティング広告による集客」が命綱になっているところがあります。これは、じげんもウェブクルーも、後述するリブセンスも、そして当社も同じです。
特にウェブクルーは2012年ごろにSEOで大きく検索順位が下落し、リスティング広告を積極的に打つことで売上を維持していた時期があります。また、リブセンスもSEOで順位が下落したことで、売上が大きく下がってしまったというのは、Web業界ではよく語られる話だったりします。
続いて、②の人件費ですが、こちらはどの事業にどれくらいの人件費を割いているのかわからないので、詳細は不明です。ただ、ウェブクルーは専門家などの記事コンテンツが目立つため、やはりじげんのようなデータベース勝負のサイトに比べると、人件費はかかっているのかもしれません。
情報メディア大手のAll Aboutなんかも、利益率はかなり低いですからね。。。
リブセンス
求人サイト「ジョブセンス」を運営するリブセンスは、「成果報酬型」という点でじげんに似ているのですが、実は対象が少し違います。
両社ともに若手社長が経営していることもあって、マーケットでも対比されることが多いのですが、、、
リブセンスが運営する「ジョブセンス」は、成果報酬型モデルを導入した純粋な求人サイトです。一方で、じげんが運営する「転職EX」は、利用者から見ると求人サイトという点で同じなのですが、どちらかというと集客に特化したサイト(求職者と求人サイトの橋渡し役)となっています。
つまり、ジョブセンスは転職EXに成果報酬を払う広告主であり、転職EXは求職者を送客するメディア(媒体)となるため、直接は競合しません。
クートン
というわけで当社。
当社もじげんやウェブクルーに近い形のビジネスをやっています。
一般的なアフィリエイトサイトと同じなので、革新的なビジネスモデルというわけではないです。
今回比較した会社との違いについてまとめます。
読むためのサイトか探すためのサイトか
じげんの運営する「バーティカルメディア」には、ブログのような濃い記事があるわけではありません。「読むためのサイト」ではなく、「探すためのサイト」といったところ。例えば「転職EX」には、50万件以上の求人情報が掲載されています。データベースの総量とサイトの使いやすさで勝負という感じでしょうか。
一方で、クートンが運営しているサイトには「データベース」はありません。どちらかと言うと、読みごたえのある記事をサイト内に用意して、求人情報を探している見込み客を集めるという感じです。
残念ながら当社は現在、求人サイトは運営していないのですが、もし求人サイトを作るとしたら、
- 面接で良い印象を持ってもらうためのテクニック
- 秘書検定が重宝される職業ランキング
といった内容を調べて、Web記事としてサイトに掲載します。
おそらく、こういった記事を読みに来る人は、就職・転職を考えている人でしょうから、サイト内の記事をじっくり読んでもらえます。その上で、利用者は当社のサイトに掲載している求人サイトの広告をクリック。当社は利用者を求人サイトに送客することで、成果報酬を得ます。
同じ「バーティカルメディア(特化型サイト)」であり、最終的な送客先も同じなのですが、アプローチ方法が違います。
一括申込には対応していない
ウェブクルーやじげんの強みは、「一括申し込み」ができることです。
例えば、「ズバット引越し料金一括見積り」の場合、サイト利用者はたった1つのフォームに必要項目を入力するだけで、何十社もの引越し業者に見積もりを出すことができます。ユーザーにとっては見積もりの申込が簡略化できるメリットがあり、ウェブクルーにとっては一度の申込で複数社からの成果報酬が得られる利点があります。
一方で、クートンの場合はあくまでも、一社ずつの申込となります。
引っ越しの見積もり比較サイトを作る場合は、それぞれの業者の特徴を紹介し、最終的に利用者が一番良いと思った業者にピンポイントで送客する形です。もしくは、「クートン → ウェブクルーのような一括見積りサイト → 各業者」といった形で、「ズバット引越し料金一括見積り」自体が送客先(広告主)になるケースもあります。
広告代理店を挟んでいる
ウェブクルーやじげんのような一括見積もりサイトの場合、おそらく送客先とは直接、取引関係にあると思います。つまり、転職EXの場合は、マイナビ転職やDODA、ジョブセンスリンクといった求人情報サイトと一社ずつ契約を結んでいるのだと思います。
しかし、当社の場合はASP(アフィリエイトサービスプロバイダ)というアフィリエイトの広告代理店を挟んでいます。間に代理店が入ることで利益率は下がりますが、言い方を変えれば複雑な契約関係や営業業務、単価交渉といった手続きをすべて、アウトソーシングしていることになります。ASPを活用することで、例えばたった1名のブロガーが一切営業することなく、数多くの広告を獲得することも可能です。
広告の課金方式が違う
弊社もアフィリエイト広告(成果報酬型広告)がメインの課金方法です。しかし、売上全体の2割ぐらいは「クリック課金型広告」と「純広告」です。2割の内訳のうち、ほとんどはクリック課金のGoogle AdSenseです。
なぜクリック課金を併用しているかというと、成果報酬型広告はブレが大きく、逆にクリック課金は安定性が高いというのが理由です。また、成果報酬型広告は一般的に、利用者に購買意思がなければ成果に繋がりませんが、クリック課金型広告は、ユーザーが少しでも表示された広告に興味があれば、収益に繋がります。
わかりやすく言うと、アフィリエイトで成果をあげるには、「記事を読む → 商品購入の意思決定をする → 広告クリック → 商品購入」という流れが必要です。ただ広告クリックさせただけでは、成果に繋がらない可能性の方が高く、1円の売上にもなりません。
例えば、サイト内のサイドバー部分に成果報酬型を貼っても、「目についたからなんとなくクリックした」というだけのケースが大半なので、成果報酬型広告は売上に繋がりにくい側面があります。こういった部分は、Google AdSenseのようなクリック課金型の方が向いています。
アフィリエイト広告については昨日書いた記事もご覧ください。
アフィリエイト広告の誤解。ネット収入を得たいなら抑えておくべき3つの課金方式
ということで
「上場企業の中に零細企業をぶっこむな(#゚Д゚)ゴルァ!!」と怒られそうですが、「自社とどこが同じなのか?また、どこが違うのか?」を分析することで、見えてくるものがあると思ったので、自分メモとして書きました。
ウェブクルーなんかはずっと以前からある会社ですし、じげんは今、乗りに乗ってるベンチャーです。一見、似ているようでも、やり方を少し変えるだけで、まだまだ大きく変化できるチャンスはあるのかなと思いました。
(書いた人:川原裕也)